いつだったか・・・そう遠くない頃に聞いた話である。
とあるご老人が街を歩いていると、
前の方からヤクザの兄貴分とその舎弟の数名が歩道いっぱいになって歩いて来て、
その老人のすぐ前まで来ると、兄貴分が、
「ここを通りたかったら、オレの股の下をくぐれ。」
と、からんで来たのである。
すると、この老人は何の躊躇もなく四つん這いになって股の下をくぐったのである。
で、それを見たヤクザ衆は、
「まるで犬やな、ワンワン吠えてみろ。」
なんてからかいながら笑っていたのであるが、
股をくぐった老人は、何事もなくそのまま歩いて行ってしまったのである。
「ボケ老人か、ガハハ~。」
その姿を見たヤクザ衆は笑い飛ばしたのである。
それから時が過ぎ、この兄貴分が自分の親分のところへ行ったある日、
「いつもワシが世話になっていて、心から尊敬するスゴい武術の先生や。」
と、親分の隣にいた人を紹介され、そのお顔を見た瞬間、
この兄貴分の顔はひきつって身体が硬直してしまったのである。
そう、隣にいたのは、あのとき、股をくぐらせたご老人だったのである。
(親分が尊敬している人にオレの股の下をくぐらせたなんて親分が知ったら・・・)
しかし、ご老人は、微笑みを浮かべながら、
「初めまして。」
である。
これが達人の姿なんだそーである。
ヤクザ衆にビビったからではなく、勝てるのに股の下をくぐったのである。
しかも「犬」とまでからかわれてもまったく相手にせず立ち去ったのである。
で、親分の前で「初めまして。」なんて言うのも、
決して認知症ではなくて、自分をからかったこの兄貴分を守ってあげたのである。
そして、老人のその微笑みに、この兄貴分は、その凄さを知らされたのである。
てな話を昨日の稽古後の夕食のときに嫁ちゃんにしながら、
「オレも、もう股の下はくぐれる人間になったと思うんだよな~。」
と、言うと、
「・・・・・・・・・・。」と嫁ちゃん。
「でも、くぐった後にもからかわれたら、まだ、たぶんヤッちゃうだろーな。」
と、言うと、
「まだまだ、くぐられん。」と嫁ちゃん。
「もう、くぐれるわい!」とオレ。
「くぐらん、くぐらん。」と嫁ちゃん。
オレはそのレベルだったんだぁぁぁ。
嫁ちゃんが言うのだから間違いないのである。
ワタシよりもワタシのことを知ってる嫁ちゃんなんである。
で、よくよくリアルに想像してみると・・・
股の下なんかくぐれるかー。
達人には程遠いワタシである。
が、惚れた女にはスゲー男に成ったと思わせたいのである。
で、ますます稽古に励む決意である。
とりあえず、今日の稽古でお弟子さんの股の下をくぐる稽古をしてみよっかな・・・
え!?ワタシが四つん這いになって股の下をくぐるの?
やっぱり、イヤやー。
咲 心太郎
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